4月の原稿

旅の途中に

4月にちなんで、以前新聞のコラムに掲載されたKAKOさんの原稿を、どうぞ。
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ここ数年、四月、五月のカレンダーを見るとワクワクしてくる。北海道から九州にかけて、日本縦断のコンサート・ツアー。この音楽の旅が春の修学旅行のような気分になるのは、ステージ以外にも楽しみがあるからだ。

いつの年だったか、長崎は小雨に煙っていた。
それでも滞在の短い時間をぬって、オランダ坂へ車をとばした。雨のせいで人の気配もない坂道に立つと、建物の脇から異国の人がふっと出て来そうな錯覚もする。満開の桜はかすかな風に散り始めていたが、ハッと息をのむ幻想的な美しさで、その佇まいに立ち会えたという幸せな気分が、私を包んだ。
また時折、列車の窓外の田園風景にも見とれてしまう。新緑の山里に・・・・はためく鯉のぼり、やがて田には水が入り、太陽の光を受けて山々や空を映し出す。そして旅の終わる頃、水田には淡い緑の苗が一糸乱れぬ姿を現す。場所によっては棚田という智恵を生み、精緻な作品のように極めた畑をつくってきた人々。ここにも日本人の精神を垣間見るような気がする。
パリの学生時代に師オリヴィエ・メシアンが言ったことがある。「あなたが日本人だということ、それは大きな財産なのです。そのことに深く思いを致しなさい」と。
日本の美しさ。それらを感じる私が、西洋の楽器であるピアノで作曲をし、演奏している。一音一音探す時にも、無意識に、この風土の色調は現れてきているのだ。今は、その言葉の意味が、よく分かる。(2007年4月掲載)
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この文章の、「精緻な作品のように」という箇所が、私はとても好きです。あなたは如何ですか?

Posted by アトリエール