かさねのいろめ

タイムスリップ

暑い夏には”和手ぬぐい”を・・・ということを書いたせいではないのですが、偶然、プレゼントをいただきました。この手ぬぐいには2色の色が入っているだけ、絵柄というものはありません。

平安時代の貴族社会の衣(ころも)の色合わせを表した手ぬぐいです。衣服の表と裏の配色(合わせ色目)とか、昔の織物は薄くて内側の衣の色が透けて見えたといいますから、重ねることで楽しんだ色目、襲色目(かさねのいろめ)などがあったそうです。古い書物の、ふと見かけた籠の中の女性の、顔はよく見えぬのに袖のかさねの色合いに心惹かれもう一度逢いたいと思う、という一節が記憶の底にありますが、色彩のセンスや鑑識眼は素養のひとつでもあったのでしょう。

染色自体が現代と違って、草や花、木の皮、実や根など自然界から得られるものが材料となっている謂わば草木染め。色目の名前も、四季折々の時節に合う草花などのイメージが名づけられています。
右側が「樗(おうち)の枝先に淡紫の小さな花が咲いたところを表したもの:樗~おうち~」だそうで、季節は夏。樗はセンダンの木と同義語のようです。 夏のかさねには、薄青(うすあお)と薄紫(うすむらさき)を重ねて”葵(あおい)”、青(あお)と濃紫(こきむらさき)を重ねた”夏萩(なつはぎ)”、秋になると紫(むらさき)と二藍(ふたあい)を重ねて”萩重ね(はぎがさね)”など沢山の季節感あふれた名前があります。
左側は「海中の岩に生える海藻、海松(ミル)の色を表したもの:海松色~みるいろ~」だそうで、冬もしくは四季通用。冬のかさねには、黄(き)と薄青(うすあお)を重ねた”枯野(かれの)”という、まさに風景を描けそうな言葉もありました。
こうして色のかさね方を見ていると、昔の人が移ろいゆく四季をいかにいとおしみ心をくだいていたかを感ぜずにいられません。時には古き日本の色辞典でも眺めながら、好きな色と名前を見比べて楽しむのも気分転換になりますね。今回の贈り主にも、そういう奥床しい暑中お見舞いの心配りがあったのだと思います。感謝!

今KAKOさんは、アンサンブル金沢からの委嘱曲に取り組んでいます。曲が出来あがる前から曲名を提出しなくてならず、すでにチラシなどには掲載されていますが、「色」と関係のあるタイトルになりました。ヴァーミリオンスケープ~朱の風景~。ここでの朱色は西洋の赤ではなく、古来から日本にある色をイメージしているそうです。

Posted by アトリエール