一念発起

LA MUSIQUE

コンピューターが身の回りの様々な状況を変えていきますが、こちらのアトリエで最も変化したことと言えば、楽譜制作だと思います。現在では”finale(フィナーレ)”という楽譜制作ソフトを使用しておりますが、ここに辿り着くまでのお話しも書いてみましょう。
東京藝術大学でもパリ国立音楽院でもずーっと手書きのスコアを書いていたKAKOさんです。今や昔の話ですが、清書は万年筆かインクとペンだった時代、かなり最終楽章のほうへいってからミスでもあれば、仕方なくよく削れるナイフでその箇所を削ったり消しゴムでこすったりしてきれいにして、再びペンで書き入れたそうです。そういうスコアって貴重で、なつかしいお話しですね。

卒業してからも、オーケストラや演奏家からの委嘱やテレビ、ラジオ、様々な仕事でスコアを書く機会がありましたが、いつしか痛い”ペンだこ”に悩まされるようになりました。そして、コンピューターに切り替えようかと考えて、そのことを既に始めていた方に相談しましたら、フィナーレだけはお薦めしない、と言われていたのです。難しくてその人は断念したとのこと。KAKOさんは、その当時パソコンにも不慣れでword(ワード)もexcel(エクセル)のこともよく知らないのでした。

西暦2000年を越えたある年の冬、テレビの収録で演奏することになってスタジオに向かいました。何人もの室内楽の方達の譜面台には、アレンジされた楽譜がすでに置かれています。そこに本日のアレンジャーが入っていらしたのですが、お顔を見てビックリ。大先輩の前田憲男さんだったのです。大先輩というのは同じ中学校のご出身だから。

そうか、誰かに(パソコンで)打ってもらったんだろうと思いながら、「前田さん、この譜面はアシスタントの人が作ったの?」と聞いてみました。すると当然のように「僕だよ」という答え。「このソフトは何?」「フィナーレだよ」
そういう一問一答があって、帰り道、KAKOさんは思いました。前田さんの年齢を考えても、自分のほうがまだ少しは若い、彼がトライして出来たのだから、自分にも何とか可能性はあるかも知れない。

それから、一念発起!とうとう世に難しいと言われていたフィナーレを自分のものにしたのでした。そして、あの日の出会いがなかったら・・・と、感謝とともに思い出すそうです。
ペンだこはなくなりましたが、パソコンの画面ばかり見つめているので目が疲れやすくなって、仕事用、楽屋用、旅行用など目薬があちこちに用意されていますけれど。

Posted by アトリエール