それぞれの海
久し振りにこのコーナーのページを開きました。いよいよツアーのスタートまで1ケ月を切ってしまい、ちょっと焦り気味。何か話題は・・と周りを見渡しても、同じく一つの方向しか見ていない者ばかりなので、書くことのきっかけがありませんでした。KAKOさんは、コンサート用の指練習というかリハーサルを毎日欠かさずやりながら、次なる映画の作曲でどこにも出かけられません。映画は「太平洋の奇跡~フォックスと呼ばれた男~」というタイトルで、平山秀幸監督です。主人公を演じるのは・・・まあ、このお話しは次回にしましょう。何しろ「最後の忠臣蔵」も公開前ですし、「太平洋・・」は来年2月公開ですから、急ぐことはありません。今、目の前にあるのは「クァルテット」のプログラム作りです。これを早く終わらせなければ、なのです。少しアクセルを踏んで、アトリエの日々を書いていきましょう。
先月CD「QUARTET」が発売されて、いろいろリアクションがあって面白かったです。それにしても第1曲目の「それぞれの海」って、人気があるんですね。CMに登場したわけでもないし、映画音楽でもないのに・・・と、私などは、KAKOさんが「どうしてもこの曲を1曲目にする!」と発言した時にも反対派だったんですから、皆様の反応を耳にするたびに、これでよかったのだ、と今更納得している次第です。
この曲は1999年に発表したアルバム『静かな時間』に入っています。当時はピアノのほかに、バンドネオン、二胡、チェロという異色の組み合わせで演奏していますね。この録音で二胡の姜建華(ジャン・ジェン・ホワ)さんと初めて出逢ったのでした。バンドネオンはアルゼンチン生まれ、チェロはブラジル出身でした。国籍も違う4人の演奏以来、再演することが出来なかったのは、この曲、ソリストが4人揃わないと演奏できないんです。
そういう曲、悲しい運命ですね。ところが人知れず、KAKOさんは、忘れていなかった訳です。この曲をもう一度世に送り出す日のことを。
『静かな時間』のライナーノートに書かれた文章をご紹介しますと、「父の海、僕の海、ジャキスの海、モサリーニの海、ジャンさんの海……それぞれの海」。となっていて、曲名の意味が分かるのですが、そうなんです、この曲は
”海を愛した父の想い出に捧げた曲”なのでした。少年時代、父と連れ立って瀬戸内海の海に船で出て行き、そこで見た夕陽が自分の原風景となっている、と、よく取材陣に答えています。黄金色にまばゆく輝く夕陽に幼い自分自身が包まれている。子供の頃の感じ方と大人になってからの目線にはかなりの差がありますから、きっと子供心に相当大きな夕陽だったのでしょうね。
曲のほうは、それぞれの“人生の海”あるいは“記憶の海”を、ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの4人のメロディラインに投影しながら進んでいきます。しばらくパソコンを閉じてCDを聴き、”私の海”を振返ってみたいな、と思いました。