遙かなる旅路
ここに一枚のCDジャケットを取り出しました。1989年にパリ郊外のスタジオで録音した「幻想行」です。読み方はそのまま「げんそうこう」で、KAKOさんが名付けました。
前衛的なフリージャズを演奏していた頃から年数が経ち、黒人のパーカッショニスト2人と白人ベーシスト1人とが参加して、少し譜面もあり部分的に即興も含まれた、ジャズっぽさの曲をセレクトしたアルバムでした。
幻想行の下に英字で「Long Journey」と書かれていて、その理由もライナーノートのようなところにありました。
《・・・「旅」のイメージを、もっと大きく膨らませたものにしたい(略)・・・物理上の旅だけではなくて、もっと幻想的な旅へ、外へ向かう旅と、内への旅、ノスタルジー、具象から抽象への旅、そんな想いから、アルバムのタイトルも英文でLong Journey(遙かなる旅路)・・・(略)》
このレコーディングでKAKOさんが選んだベーシストがフランス人のJean Jacques Avenel(ジャン ジャック アヴネル)で、頭文字からJ.J(ジェイジェイ)と呼ばれていました。
アルバム「幻想行」の発表記念に来日してもらい、国内ツアーを行いましたが、その時初めて彼に会いました。
ベースというと普通は低音域の伴奏形を担うことも多いですし、重厚な音を想像しがちですが、J.Jの演奏は歌うようになめらかで、華やかさも持ち合わせていたせいか、姿を見ないで聴いていると、チェロでも弾いているのかと勘違いしそうでした。
日本贔屓で、桜の木で作られたお茶をすくう匙のようなものを買ったり、お寺などの竹林も気に入って、何とか太い青竹をフランスまで持って帰れないか、と言っていたそうです。
KAKOさんの音楽スタイルが、徐々に「シンプルで美しいメロディー」の傾向へ移り、もう誰もジャズ・ピアニストとは思わなくなったように、いわゆるジャズを演奏することもなくなり、J.Jと再びツアーを組むこともありませんでした。
そのJ.Jが病気のため8月11日に亡くなった、というメールがフランスに住むケント・カーター経由で届きました。Kent Carter・・・、KAKOさんのピアニスト人生のハイライトの一つであるグループ「TOK(トーク)」のベーシストです。
KAKOさんが気に入っているというこの写真を眺めながら、J.Jが音楽の天使の羽根にのせられて旅をしていて欲しいナと願いながら書いています。
2014/08/18