『春と修羅』の奥底に

LA MUSIQUE

時折、書店からの「著者謹呈」本が届きます。
殆どは、仕事で知り合った方々が執筆されたもので、今回はテレビ番組で演出家でいらした方の、ノンフィクションでした。

KAKOさんは作曲中で直ぐには読めないので、私が先に拝見。KAKOさんと私への連名で郵送されてきたので、まあいいでしょう。

今野勉・著「宮沢賢治の真実」新潮社

あまりに感動してしまい、ちょっとひと言ご報告する次第なのです。

発行側が挟み込んだA4の紙にはこんな文が。
・・・・
賢治の作品に魅了されて半世紀ーー数多の感動作を生み出した”テレビ界のレジェンド”が出会った「異形の詩」
たった4行の背後に、誰も知らない賢治がじっと息を潜めていた・・・・

このコピー文を読まずに本を開きました。
最初の1行はこんな言葉で始まります。
「私はこれまで四人の宮沢賢治に出会っている。」

そして中学の時に出会った『貝の火』から始まり、時代を追って今野氏が4つに形容した賢治像が書かれています。

「生命の伝道者」
「農業を信じ、農業を愛し、農業に希望を託した人」
「野宿の人」
「誰にも理解できない言葉を使う人」

そして、たった4行の文語詩の、ただならぬ「異形」さの謎を解いてゆくところから、五人目の宮沢賢治が立ち現れてくるのでした。
何しろ言葉の謎が次の謎を呼び、読み進める自分も「どうなるのか、何がこの先待っているのか」と、著者の後ろから付いてゆく秘密探偵にでもなった気分です。『春と修羅』の奥底にあるものは?『銀河鉄道の夜』の「ジョバンニの切符」とは?

意外な真実が明かされていって、著者の足掛け6年の締めくくり、400頁の最後の章では瞼が濡れました。

さて、KAKOさんが1988年に発表したCD「KENJI」は、最近のファンの方はご存じないかも知れませんが、まさしく宮沢賢治がテーマです。

賢治の短歌、詩、童話から野沢那智さんが選び出した言葉と朗読、KAKOさんの音楽とが響き合うというCDでした。
これをステージで表現した際には、「賢治から聴こえる音楽」とタイトルがつき、ピアノとチェロとで『永訣の朝』も奏でられました。もちろん初演当時の朗読は、今は故人の野沢那智さんでしたが、その後は、花巻で劇団も主宰されている方に飛んできていただいたり、、、。当時、ステージを収録したビデオも発売されたのです。(今ではビデオを再生できる機器を持っていない人が殆どですね)

KAKOさんは昨年の暮れ、久しぶりに再演したいようなことをつぶやいていましたので、偶然性も感じる謹呈本でした。
私は「KENJI」のどの曲も好きですが、特にエピローグの「注文の多い料理店の序」に流れる曲と詩を、懐かしさを伴いながら思い出します。

2017/03/02

Posted by アトリエール