メディア記事から
- 映像の世紀・・・という文字が眼に飛び込んできて、その記事を読んでいたらKAKOさんの名前が出てきました。
- 全文を転載します。
- <2050年のメディア>第74回 NHK『新・映像の世紀』プロデューサーは語る
- 映像その100年の文法=下山進〈サンデー毎日〉
- <Susumu Shimoyama “MEDIA IN 2050”>
- NHKの大型企画開発センターは、NHKスペシャルなどドキュメンタリーの大型番組を専門につくっているセクションだ。その最年長のプロデューサーが、寺園慎一(てらぞのしんいち)。 「自分より年上の人間は理事しかいない」という寺園は、2019年10月にNHKを定年になっている。契約社員として残って今も制作統括として番組をつくっている。 50代半ばになると、NHKを離れ、関連会社に出ていくのが通例のなかで、定年まで番組に残っているというのも稀有(けう)だが、定年後も一年更新で大型企画開発センターにいるのは、余人をもって代えがたいということなのだろう。 8月14日にBSプレミアムで放送になった「映像の世紀プレミアム」の新作『中国〝革命〟の血と涙』をたまたま観た。寺園が制作統括としてかかわった番組だった。 清朝から今日までの中国を発掘映像で描いた90分のドキュメンタリーなのだが、感心した。加古隆がこのシリーズのために作曲した「パリは燃えているか」の哀愁をさそうメロディにのって、権力闘争に負けることが死を意味した中国共産党の100年を、描いていた。自分がたまたま見入ってしまったのは、劉少奇の遺灰を、死後15年以上もたってようやく夫人の王光美と家族が、無念の思いで泣き叫びながら海に撒(ま)いている映像の強さに釘付けになったからだった。 7000万人が餓死したという毛沢東の大躍進政策が失敗だと喝破した劉少奇は、毛沢東にかわって国家主席になる。夫人の王光美は、理学修士を持ち、四カ国語を話せる。ファーストレディとなった王光美はチャイナドレスに身をつつみ、劉少奇とともに華麗な東南アジア外交をくりひろげた。 が、それを苦々しく見ていたのが、毛沢東の妻江青だった、という説明があり、毛沢東がしかけた「文化大革命」で紅衛兵につるしあげられる劉少奇や、江青の指示で、チャイナドレスを無理やり着せられ、真珠のネックレスを模した首飾りを下げさせられた王光美が、大衆の前で罵声を浴びせられる映像が映される。王光美は12年間投獄され、劉少奇は軟禁中に衰弱死する。
- しかし、清朝以来の中国の歴史のなかでも、なぜ、劉少奇と王光美の話をこれほど分数をとって伝えたのだろう。そう思って寺園に聞くと、それは歴史の中の重要性というより、入手できた映像の強さをもとに、構成を考えたからなのだと言う。 「あれは、憤死した劉少奇の遺灰を、王光美ら家族が海に撒く映像が強かったので、それを最大限活かす構成を考えてああなったんです」 そうか、ドキュメンタリーはまず映像から考えるのか。 2015年12月20日に放送された「新・映像の世紀」の第3集『時代は独裁者を求めた』の最後のシーンもそうだったと寺園は言う。ユダヤ人や政治犯5万人が犠牲になったブーヘンヴァルト強制収容所の解放時の映像だ。それまでナチスドイツが権力を握っていく様を見てきた視聴者は、死体が積み上がる収容所を見学させられたドイツの一般市民の表情を見せられる。連合軍に同行した女性カメラマン、マーガレット・バーク=ホワイトの手記が伊東敏恵の淡々としたナレーションで読み上げられる。 〈女性は気を失い、男性は顔をそむけ、「知らなかったんだ」という声が人々からあがった。すると、解放された収容者たちは、怒りをあらわにこう叫んだ。 「いいや、あなたたちは知っていた」〉 このシーンは、直後に民放の報道番組が、そっくりパクって、安倍政権批判の特集のラストに使っていたことで私もことさら印象に残っていた。その民放番組では、ホロコースト記念博物館でNHKが発掘した映像どころか、女性カメラマンの手記の朗読箇所まで同じだったのだ! それだけ元の寺園の番組のつくりが効果的だったということだろう。 『時代は独裁者を求めた』も、あのフィルムをアメリカのホロコースト記念博物館で見つけた時から、ラストにすると決めており、そこに収斂するように全体を構成したのだという。 「映像の世紀」はもともと1995年に、映像が発明されて100年を記念し、発掘された映像だけで、歴史を描こうという試みで始まった企画だ。この1995年のシリーズには、寺園は参加していないが、このときのプロデューサーが決めた縛りは今も守っている。
- 「それは、NHKが独自に専門家や関係者に取材撮影するということはしない、ということなんです。すべて誰かが撮影した映像でつくる」 しかし、その映像の意味については、背景を取材し、あわせて音読するナレーションを決める。今回、目をひいたのは、天安門事件で一人立ち向かってタンクをとめた「タンクマン」の映像だ。この映像は、これまで「市民」の抵抗の象徴として、2016年に放送された「新・映像の世紀」の第5集『若者の反乱が世界に連鎖した』でも使われていた。今回もこの映像を使ったが、そもそもこの「タンクマン」は「市民」だったのか、と疑問を投げかけている。 「制作を担った外部プロダクションの女性ディレクターが、この時点でこの場所はすでに制圧され軍の管理下にあったことや、インタビューをしようと世界中のメディアがこの男を探したが、ついに名前すらわからなかったことから、むしろタンクが男性を轢(ひ)かなかったことが重要だと気がついたんです」 寺園は自分にはライフワークというものはない、と言う。 「その時々のテーマを広くやってきた。それがテレビマンとして長生きの秘訣かな」
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- ◇しもやま・すすむ ノンフィクション作家。著書に『アルツハイマー征服』。上智大新聞学科で調査型の講座「2050年のメディア」を開く。5冊目の著作『2050年のジャーナリスト』が9月22日発売予定
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東京・すみだトリフォニーホールで9月23日(木・祝)午後3時開演の「NHKスペシャル 映像の世紀コンサート」では、寺園慎一さんのお名前が、バックスクリーンのクレジットロールに映し出されます‼️