潮のかおり

閑(シズ)かな日

毎年この時期になると、事務用のA4角封筒に入った贈り物が郵便受けに届きます。
すぐに、これは書類ではないなと思えるほど、封筒は少し膨らんでいます。
そして、とっても軽い。
でもKAKOさんは、表書きの名前を見ただけで、「あっ!Kさん、今年も行くことができたのだ」と言います。さて、封筒の中身とは、何でしょう?

この写真をご覧下さい。

左が送られてきたもの、右が少しだけ茹でたもの。
「ワカメ」です。
買おうと思えば、スーパーでも簡単に手に入りますが、これだけは、単に味だけではない格別なもの。

美術館館長というお仕事などいくつもの顔を持ち、多忙な日々をぬって僅かな時を編み出さなくてはならず、
何しろ天候や潮との戦いですから、つい、今年は行けないのではないか、とご本人も思ったりするらしい。
出掛ける先もお住まいからは少し離れた半島の、決まった場所。Kさんがご自身で海に入って刈り取り、10日間かけて日に干して乾燥させているのです。胸まで海水に浸かりながらの作業のため、ゴム合羽やゴム長靴などで支度します。時間も1時間弱と限られるのだそうです。ですから、何月何日何時何分と採取のデータを詳しく書いて下さっています。ここ10年間欠かさず。

そして、今年はこう付け加えていらっしゃいました。
「この時期に私と宇宙(海)とが出会えるのは、まさに1年に1度しかない瞬間です。今年も『その時』を得ることが出来ました。」

こうして、潮の香がただよう、うれしい春の便りが届いたのでした。

Posted by アトリエール